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えいじつしょうひん
永日小品
線上閱讀夏目 漱石《永日小品(えいじつしょうひん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 50,000 字 · 100 頁
同時にK君も遠くへ行ってしまった。
二三箇月してから、突然K君の手紙に接した。旅から帰って来た。当分ここにいるから遊びに来いと書いてあった。すぐ行きたかったけれども、いろいろ都合があって、北の果まで推しかける時間がなかった。一週間ほどして、イスリントンまで行く用事ができたのを幸いに、帰りにK君の所へ回って見た。
表二階の窓から、例の羽二重の窓掛が引き絞ったまま硝子に映っている。自分は暖かい煖炉と、海老茶の繻子の刺繍と、安楽椅子と、快活なK君の旅行談を予想して、勇んで、門を入って、階段を駆け上るように敲子をとんとんと打った。戸の向側に足音がしないから、通じないのかと思って、再び敲子に手を掛けようとする途端に、戸が自然と開いた。自分は敷居から一歩なかへ足を踏み込んだ。そうして、詫びるように自分をじっと見上げているアグニスと顔を合わした。その時この三箇月ほど忘れていた、過去の下宿の匂が、狭い廊下の真中で、自分の嗅覚を、稲妻の閃めくごとく、刺激した。その匂のうちには、黒い髪と黒い眼と、クルーゲルのような顔と、アグニスに似た息子と、息子の影のようなアグニスと、彼らの間に蟠まる秘密を、一度にいっせいに含んでいた。