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えどのかじゅつ
江戸の火術
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《江戸の火術(えどのかじゅつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,929 字 · 36 頁
兄喜三郎に頼まれて、井上流砲術の秘伝を盗む為に、二人の手先まで使って、あんな細工をしたに違いあるまい――己れ憎い女奴ッ、――井上半十郎思わず拳を掴って起ち上りました。
「そう仰しゃれば、おかしなことがございます、昨夜お休み前まで、顔半面あんなひどい赤痣でしたが、今朝お発ちになるところを見ると、痣どころか、黒子一つ無いじゃありませんか。――それはそれはお綺麗な方でございましたよ」
下女の話は奇っ怪です。
「それは本当か」と井上半十郎、
「多分絵の具で書いた痣でございましょう、あんまり変って居るので、ツイ申上げますと、――道中は物騒だから、姿を変えて歩いたけれど、此処からはもう家も近いから、そんな細工も要らない――と、斯んなことを仰しゃいました。赤い絵の具を洗い落した後の美しかったこと、本当にお目にかけ度いようでございましたよ」
下女の説明を空耳に、井上半十郎は大急ぎで旅仕度を調えました。此上は何処までもあの女の後を追っ駈けて「井上流砲術秘巻」を奪い返さなければなりません。
「ところで女は何方へ行った」
朝の食事の代りに、握り飯を三つ四つ用意させ、鳥の立つように、門口へ――、半十郎は上り下りの街道を、途方にくれて眺めます。