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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

あしたは重陽の節句で主人も登城しなければならない。その前日の忙がしい中をくぐりぬけ、彼はもう堪まらなくなって、屋敷を飛び出したのであった。

両国の秋はいよいよ深くなって、路傍には栗を焼く匂いが香ばしく流れていた。しかしここの名物の観世物小屋の野天商人が商売をはじめるのは午過ぎからで、午まえの広小路は青物の世界であった。夜明けから午までは青物市がここに開かれるので、西両国には荒筵を一面に敷きつめて、近在の秋のすがたを江戸のまん中にひろげていた。

霜に染められたかと思う川越芋の紅いのに隣り合って、秋茄子の美しい紫が眼についた。どこの店にも枝豆がたくさん積んであるので、やがて十三夜の近づくのが知られた。これから神明の市の売物になろうという生姜の青い葉や紅い根には、白い露と柔かい泥とが一緒にぬれてこぼれていた。江戸じゅうの混雑を一つに集めたかと思われるような両国にも、暮れゆく秋の色と匂いとが漲っているように見えるのが、このごろの薄寒い朝の景色であった。その青物の露を蹈んで、林之助は橋を渡った。

「あら、いらっしゃい」

格子をあけると、お君はすぐに駈け出して来た。