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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

うす暗いお絹の枕もとには楽屋番の豊吉も坐っていた。前芸のお若もしょんぼりと坐っていた。いつも留守番を頼むという隣りのお婆さんもぼんやりと屈んでいた。どことなしに薬のけむりがしめって匂っていた。

「おや、いらっしゃい」と、豊吉は振り返ってまず声をかけた。そうして、すぐに入口へ起って来た。

「旦那。いけませんぜ。あれほど私が言って置いたのに……。あなたはどうも不実ですぜ。きょうはよっぽどお迎いに出ようと思っていたんですが……」と、彼は林之助をたしなめるように言った。

「いや、なにしろ御用が忙がしいんでどうもこうもならねえ。あしたは節句という忙がしいなかを、きょうはようよう抜け出して来たくらいなんだから、まあそう叱って貰いたくない」と、林之助は苦笑いをした。「そうして、どうだね、病人の容体は……」

豊吉は顔をしかめて首を振った。

「悪くなるばかり」

「困ったもんだ。医者もあぶないと言っているかね」

「はっきりとは言わねえが、もう匙を投げているらしいんですよ。なにしろ咳が出て、胸から肋骨が痛んで熱が出て……。どうもこの秋は越せまいと思うんです。わたくしも長らくお世話になった姐さんですが……」