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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

女でも生まれ故郷を離れて、遠い長崎や奥州の果てへ行く者も沢山ある。この廓にいる人でも大坂生まれは数えるほどで、近くても京丹波、遠くは四国西国から売られて来て、知らぬ他国で辛い勤め奉公しているのもある。それを思えば男の身で、多寡が二年か三年の辛抱がならぬということがあるものか」

お園は同じことを繰り返して力を付けた。

「それはわしも知っている。親方にもいわれ、兄弟子たちにもいわれ、お前にも意見され、どうでも江戸へ行くことに覚悟は決めている。どんな辛い辛抱もして、立派な職人になって戻って来るほどに、どうぞそれまで待っていてくれ」

口だけは男らしく言っても、それを裏切る涙は六三郎の眼に浮いていた。

歯がゆいように弱々しい男がお園にはやっぱり可愛かった。可愛いというよりも、いじらしく憐れでならなかった。うるさい世間の口を避けるために、江戸へ修業に行くのも確かにいい。そうして、他人の中で揉まれて来れば、人間も少しは強くなるに相違ない、腕もあがるに相違ない。一時は辛くとも当人の末の為になる。そう思って自分もしきりに勧めているのではあるが、また考えて見ると、人にもよれ六三郎はこうした稼業に不似合いな、ふだんから身体もかよわい方である。