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けっせんかわなかじま うえすぎけんしんのまき

決戦川中島 上杉謙信の巻

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《決戦川中島 上杉謙信の巻(けっせんかわなかじま うえすぎけんしんのまき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,278 字 · 19 頁

青空文庫

馬力にうたる

永禄四年七月三十日。余(上杉謙信)はひそかに春日山城を降り五智の海へ散歩にでた。従う者は池田放善坊という新発意ただ一人。余は時々サムライがイヤになる。自分がサムライであることも、サムライの顔を見るのもイヤになることがあるのだ。この日は特にそうだった。

余はこの年の三月小田原を攻め、古河に公方を置きなどして、自らも病に倒れ、六月に至ってようよう帰国したばかりである。百余日にわたる遠征に将兵は疲れきっていた。しかるに余は、武田信玄と決戦せざるを得ぬ気持にせめたてられているのである。

彼こそは当代の悪党である。胸中一片の信義もない。術策をもって業となし、他国に内訌を謀り自家の勢力伸長のみを念としている。

昨年今川義元が織田信長に討たれて後は、天下平定、覇者の悪夢につかれ、益々悪逆な術策に身を持ちくずしているものの如くである。痴人の妄想、笑止、哀れである。

余は義をもって人生の根本と考えている。たのまれて義戦を起すことはあっても、好んで人を攻めたことはまだなかった。天下の望みも余は持たない。ただ、天下を望みうる実力第一を確信しているだけである。