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どろぼうとわかとの

泥棒と若殿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《泥棒と若殿(どろぼうとわかとの)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 頁

青空文庫

ここへ幽閉されてから初めての魚といってもよい、成信は幾たびも、「うまい」と云いそうになっては口をつぐんだ。――こうして三日、四日と経った。伝九郎は大妻川の堤防工事で働らいているという。それはいいが、いつも厳しい監視者はどうしたのか、伝九郎のような人間が出はいりしているのに、どうしてすてておくのか、そこが成信には不審に思われた。

「この屋敷へ出はいりして、誰かに咎められたことはなかったか」

いちどそうきいてみたところ、

「おらあそんなへまなこたあしねえよ」

伝九郎はさも猜るそうに笑った。

「この近所の百姓だって、おれたちが此処にいるこたあ知っちあいめえ、工事場の者なんざ云うまでもねえさ、そこはおれだって考げえてらあな」

ほの暗いうちに出て昏れてから帰る。往来とも黒谷の谿流に沿った杣道をとるので、まだ途中で人にであったこともないと云った。これまでの監視ぶりは、そんなことでごまかされるような、なまぬるいものではなかった。とすれば、あるいは監視がゆるんだのかもしれない。

――そういえば城からのみまわりも暫らく来ないようだが。

成信はこんなふうに考えていた。

はなはだ奇妙な、一種の共同生活が、こうして続いていった。