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こはんていじけん

湖畔亭事件

江戸川 乱歩

線上閱讀江戸川 乱歩《湖畔亭事件(こはんていじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 頁

青空文庫

あっけに取られた私は、ただボンヤリとそこに立尽くしていました。まるできつねにでもつままれた様な話しなのです。

「アア、俺の頭はいよいよどうかしてしまったのだ。あんな気味悪いまぼろしを見て、しかもそれを真実の事かなんぞの様に騒ぎ廻るなんて。なぜ変な覗き眼鏡なんか作ったのだろう。もしかすると、あれを考案した時から、もう俺は気違いだったのかも知れない」

さっきのとは違った、もっと根本的な恐れが、私を戦慄させました。私は夢中で自分の部屋へ帰ると、敷いてあった床の中へもぐり込んで、これらの事が一切夢であってくれればいいと、それを祈りながら目をとじました。

一時やんでいた近くの部屋の馬鹿騒ぎが、私の愚かさをあざ笑う様に、又してもドンチャンドンチャンとやかましく響いて来ます。蒲団を被ってもどうしても、その響きがうるさく耳について、寐られたものではないのです。

すると、いつの間にか又、私は先ほどの幻について考えふけっていました。あれが幻であったと極めてしまうのは、とりも直さず、私の頭が狂っていることを承認する様なもので、余りに恐しいことです。それに、段々冷静に考えれば考えるほど、私の頭が、或は眼が、それほど狂っていようとは思われません。