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せんこうてい「ハビヒツブルグ」

潜航艇「鷹の城」

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《潜航艇「鷹の城」(せんこうてい「ハビヒツブルグ」)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,395 字 · 263 頁

青空文庫

「いや、怖くもないがね。君も知ってのとおり、本艇には、あますところ魚雷が一本だけだ。で、なるべくは大物というわけでね」

そう云って艇長は、蓄音器の把手をまわし、「碧きドナウ」をかけた。三鞭酒を抜く、機関室からは、兵員の合唱が洩れてくる。

が、こうして語るその情景を、眼に、思い泛べてもらいたい。霧立ち罩めた夜、波たかく騒ぐ海、駆逐艦からは爆雷が投ぜられて、艇中の鋲がふるえる。

しかも、そのまっ暗な、水面下三百呎のしたでは、シュトラウスのワルツが響き、三鞭酒の栓がふっ飛んでいるのである。四人は、噛みかけた維納腸詰を嚥み下すこともできず、しばらくは、奇異な、浪漫的な、悪夢のなかを彷徨っていた。

以上の経過を、犬射は言葉すくなに語りおえたのであるが、すると、見えぬ眼を海上にぴたりと据え、そこを墓とする、武人の俤を偲んでいるようであった。

が、やがてその口は、怪奇に絶する、「鷹の城」の遭難にふれていた。

「そんなわけで、われわれが過した艇内の生活は、意外にも好運だったと云い得ましょう。そしてその翌日、合衆国巡洋艦『提督デイウェイ』とコマンドルスキイ沖で遭遇するまでは、航路、まったくの無風帯でした。