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せんこうてい「ハビヒツブルグ」

潜航艇「鷹の城」

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《潜航艇「鷹の城」(せんこうてい「ハビヒツブルグ」)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,395 字 · 263 頁

青空文庫

それがウルリーケの夫、テオバルト・フォン・エッセン男爵の画像だったのである。

金髪が柔らかに額を渦巻いて、わけても眼と唇には、憧れを唆り立てる、魔薬のような魅力があった。

法水はウルリーケの室を出ると、その画像をしばらく見詰めていたが、やがて眼を落して、書架の中から一冊の本を抜き出した。

その書名を肩越しに見て、「快走艇術」――と、検事は腹立たし気に呟いたが、そのまま薄暗い室内を歩きはじめた。

灯のこないその室には、微かな、まるで埃のような光靄が漂っていて、木椅子の肌や書名の背文字が異様に光り、そのうら淋しさのみでも、低い漠然とした恐怖を覚えるのだった。

やがて検事は、寒々とした声で呟きはじめた。

「法水君、君はもっと野蛮で、壮大であって欲しいと思うよ。きまって殺人事件となると、肝腎の犯人よりも、すぐに空や砂、水の瑠璃色などを気にしたがるのだからね。そこで断っておくが、ここには、黒死舘風景はないんだぜ。豪華な大画舫や、綺びやかな鯨骨を張った下袴などが、この荒ら家のどこから現われて来るもんか。だから、今度という今度、書架の前だけは素通りしてくれると思っていたよ。