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ぼくとうきだん
濹東綺譚
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《濹東綺譚(ぼくとうきだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 57,666 字 · 114 頁
この番地のあたりはこの盛場では西北の隅に寄ったところで、目貫の場所ではない。仮に之を北里に譬えて見たら、京町一丁目も西河岸に近いはずれとでも言うべきものであろう。聞いたばかりの話だから、鳥渡通めかして此盛場の沿革を述べようか。大正七八年の頃、浅草観音堂裏手の境内が狭められ、広い道路が開かれるに際して、むかしから其辺に櫛比していた楊弓場銘酒屋のたぐいが悉く取払いを命ぜられ、現在でも京成バスの往復している大正道路の両側に処定めず店を移した。つづいて伝法院の横手や江川玉乗りの裏あたりからも追われて来るものが引きも切らず、大正道路は殆軒並銘酒屋になってしまい、通行人は白昼でも袖を引かれ帽子を奪われるようになったので、警察署の取締りが厳しくなり、車の通る表通から路地の内へと引込ませられた。浅草の旧地では凌雲閣の裏手から公園の北側千束町の路地に在ったものが、手を尽して居残りの策を講じていたが、それも大正十二年の震災のために中絶し、一時悉くこの方面へ逃げて来た。市街再建の後西見番と称する芸者家組合をつくり転業したものもあったが、この土地の繁栄はますます盛になり遂に今日の如き半ば永久的な状況を呈するに至った。