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ぼくとうきだん
濹東綺譚
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《濹東綺譚(ぼくとうきだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 57,666 字 · 114 頁
サービスに上等の糊を進呈。」とかいた紙が下っていたではないか。もはや素足に古下駄を引摺り帽子もかぶらず夜歩きをする時節ではない。隣家のラディオも閉めた雨戸に遮られて、それほどわたくしを苦しめないようになったので、わたくしは家に居てもどうやら燈火に親しむことができるようになった。
* * *
東綺譚はここに筆を擱くべきであろう。然しながら若しここに古風な小説的結末をつけようと欲するならば、半年或は一年の後、わたくしが偶然思いがけない処で、既に素人になっているお雪に廻り逢う一節を書添えればよいであろう。猶又、この偶然の邂逅をして更に感傷的ならしめようと思ったなら、摺れちがう自動車とか或は列車の窓から、互に顔を見合しながら、言葉を交したいにも交すことの出来ない場面を設ければよいであろう。楓葉荻花秋は瑟々たる刀禰河あたりの渡船で摺れちがう処などは、殊に妙であろう。
わたくしとお雪とは、互に其本名も其住所をも知らずにしまった。唯※(「さんずい+(壥-土へん-厂)」、第3水準1-87-25)東の裏町、蚊のわめく溝際の家で狎れしんだばかり。