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ぼくとうきだん
濹東綺譚
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《濹東綺譚(ぼくとうきだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 57,666 字 · 114 頁
わたくしは丁度其夕、銀座通を歩いていたので、この事を報道する号外の中では読売新聞のものが最も早く、朝日新聞がこれについだことを目撃した。時候がよく、日曜日に当っていたので、其夕銀座通はおびただしい人出であったが電信柱に貼付けられた号外を見ても群集は何等特別の表情を其面上に現さぬばかりか、一語のこれについて談話をするものもなく、唯露店の商人が休みもなく兵器の玩具に螺旋をかけ、水出しのピストルを乱射しているばかりであった。
帚葉翁が古帽子をかぶり日光下駄をはいて毎夜かかさず尾張町の三越前に立ち現れたのはその頃からであった。銀座通の裏表に処を択ばず蔓衍したカフエーが最も繁昌し、又最も淫卑に流れたのは、今日から回顧すると、この年昭和七年の夏から翌年にかけてのことであった。いずこのカフエーでも女給を二三人店口に立たせて通行の人を呼び込ませる。裏通のバアに働いている女達は必ず二人ずつ一組になって、表通を歩み、散歩の人の袖を引いたり目まぜで誘ったりする。商店の飾付を見る振りをして立留り、男一人の客と見れば呼びかけて寄添い、一緒にお茶を飲みに行こうと云う怪し気な女もあった。