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はいいろのきおく

灰色の記憶

久坂 葉子

線上閱讀久坂 葉子《灰色の記憶(はいいろのきおく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 65,588 字 · 132 頁

青空文庫

父には父の虚栄があった。子供には子供の虚栄があった。それは全く逆の位置の虚栄であった。

何か為さねばならない。商売したっていい。

子供達はそう思う。お金を得れば自分達の小さな贅沢がみたされる。父は反対した。人にぺこぺこ頭をさげることはどうしても出来ない。それに困っている様子を世間にみせれば銀行の信用も失ってしまう。この提議は子供達に不可解である。そんな理由は父の独断的な解釈であり、やはり父なりの切りかえの出来ない古い頭の虚栄が何も出来させないのだと思う。衝突が度々起った。然し絶対的な権利は父にあった。焼けのこった倉庫にある品物はこっそり持出された。決して売ったのだとは云わない。運ばれて行ったのだ、と父は云う。そうこうするうちに、住んでいる家も売る状態になり、同じ市中の親類と同居するようになった。

「どうも戦後移った家は不便でしてね、それに同居の方が何かと都合いいし、ここは又、街へ出るにも歩いてゆけて……」

父の人への挨拶はきいていて苦笑せざるを得なかった。

売るものはつきた。もうこれも売ってしまったのだから。品数が減ってゆく度に、そう云いながら、三度の食事はあたり前にとれる状態を保持することは出来ていた。