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はいいろのきおく

灰色の記憶

久坂 葉子

線上閱讀久坂 葉子《灰色の記憶(はいいろのきおく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 65,588 字 · 132 頁

青空文庫

素早く右手をのばして彼女の指先にふれてみた。何気なく。しかし、その瞬間、非常につめたいその指先の感触が、私の手から胸の方へいきおいよく走った。私は一礼すると座席についた。彼女は栄養が足らないのだ。一人故郷をはなれて自炊しているんだから。私はそんな空想をしながら彼女の激烈な言葉や、黒板にチョークをたたきつけるようにしてかかれた大きな文字を、心に沁みこませた。しかしその内容にはあまり興味はなかった。

彼女と懇意になりたく思いながらその機会をねらっていた。ある朝、私は登校する時、偶然彼女と並ぶようになった。彼女は思ったより背が低く、しかも胴長であった。紺色のもんぺの膝のところに四角い継ぎがしてあった。小さい縫目であった。私のもんぺの膝のところにもつぎがあたっていた。茶色のもんぺに紺色の布が黒い大きなずぶずぶした縫目であてがわれてあり、ところどころがういたりつれたりしていた。

「あなた、おもしろいね、このつぎ」

語尾をいちいちはっきり区切って彼女はくつくつと笑った。私は、はあ、とつぶやいた。

「ああ、さむいね、やっぱりさむいね」

道が大きくカーヴしたところで、北っ風にぶつかりながら、彼女は元気よくそう云った。