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いちろうじん
犬田卯短編集二
犬田 卯
線上閱讀犬田 卯《犬田卯短編集二(いちろうじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 51,383 字 · 103 頁
「何か蒔くつもりでしょうよ。籾俵を食いつくしてしまったんですね、きっと。子供らのように、まさか、手あたり次第、ひとのものを取るわけにも行かないでしょうからね。」
「ニヒリズムの破産ですかね。」
伝統拒否者
彼女は呉服ものの行商を営んでいた。家にいることはめったになかった。一週間も旅先から帰らなかった。稀にかえって来ると、彼女は屋敷の殆んど半ばを占める野菜畑へ出て雑草をむしったり、季節々々のものを蒔いたりした。
彼女はまだ若々しかった。時に行商からかえって汚れものなど洗濯している彼女の、かかる貧しい村にあっては不似合なほどなまめかしいふうや、臆面もなく露わな脇の下、白いはぎなどを見て、村人はごくりと唾を呑んだ。
夫に死別するや、半歳ならずして彼女のそうした生活がはじまったのであった。十四になる息子は東京へ奉公に出してしまい、よぼよぼの老母は隠居家へ押しこめてしまって、そして彼女は鍬を棄てたばかりでなく、何よりもまず村人としての生活、百姓女としてのこの世の繋縛――伝統や、いわゆる「近所づきあい」という煩累から、すっかり自由になり、さらに「家」というものの、親子の関係や、夫婦の関係や、親戚間のそれや、そうした絆を断ち切ってしまって、完全に「自分一個」