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うみがめ
異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二(うみがめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 頁
前にもいう通り、行燈のある書院までゆき着くには、暗い広い座敷を五間通りぬけなければならないのであるが、中原は最初から二度も通っているので、暗いなかでも大抵の見当は付いていた。彼は平気で座を起って、次の間の襖をあけた。暗い座敷を次から次へと真っ直ぐに通って、行燈の据えてある書院にゆき着いたときに、ふと見かえると、今通って来たうしろの座敷の右の壁に何やら白いものが懸かっているようにぼんやりと見えた。引っ返してよく見ると、ひとりの白い女が首でも縊ったように天井から垂れ下がっているのであった。
「なるほど、昔から言い伝えることに嘘はない。これこそ化け物というのであろう。」と中原は思った。
しかし彼は気丈の男であるので、そのままにして次の間へはいって、例のごとくに燈心をひとすじ消した。それから鏡をとって透かしてみたが、鏡のおもてには別に怪しい影も映らなかった。帰るときに再び見かえると、壁のきわにはやはり白いものの影がみえた。
中原は無事にもとの席へ戻ったが、自分の見たことを誰にも言わなかった。第八十四番には筧甚五右衛門というのが起って行った。つづいて順々に席を起ったが、どの人もかの怪しいものについて一言もいわないので、中原は内心不思議に思った。