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かんだかいわい

神田界隈

楠山 正雄

線上閱讀楠山 正雄《神田界隈(かんだかいわい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,100 字 · 10 頁

青空文庫

三

それが神保町辺を走っていた記憶はないが、須田町辺が円太郎区域の中心ではあったようだ。その名づけ親の橘屋円太郎老人が、例の鬱金木綿の袋からぴかぴか光るラッパを出して「おばあさん危いよう」を朗かに吹いた、晩年の高座姿を、神保町の川竹(今の花月)で見たのは、三十年代のはじめであったろう。

町の賑やかであったことをいえば、電車・自動車のなかったあの時分は、古本の夜店が小川町通りには毎晩出た。五・十の日の五十稲荷の縁日ももっと盛んであったし、東明館・南明館と二つあった勧工場が、今のデパートの役廻りをして、家庭婦人の人出が今よりもかえって多かったように思われる。

三

思い出してみて、あの時分の神田は親しみももて、うるおいも多い街であった。今の神田――ばかりではない、震災後の東京の町はどこも大抵そうであるが――ことに神田はいたずらに明るく乾きすぎた感じがする。晴れても降っても、白茶けたトレンチコートの学生群が、舗道の上を右往左往するだけの街になった。それも朝の通学時間と、昼飯時のひと時で、午後にはいって追々ひっそりと白けかえる。神田へわざわざ買物にくる婦人がほとんどないのは、子供の教科書でも買うほかに何も買うものがないからだ。