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あきのしゅぜんじ

秋の修善寺

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《秋の修善寺(あきのしゅぜんじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,167 字 · 11 頁

青空文庫

一

九月の末におくれ馳せの暑中休暇を得て、伊豆の修善寺温泉に浴し、養気館の新井方にとどまる。所作為のないままに、毎日こんなことを書く。

二十六日。きのうは雨にふり暮らされて、宵から早く寝床に這入ったせいか、今朝は五時というのにもう眼が醒めた。よんどころなく煙草をくゆらしながら、襖にかいた墨絵の雁と相対すること約半時間。おちこちに鶏が勇ましく啼いて、庭の流れに家鴨も啼いている。水の音はひびくが雨の音はきこえない。

六時、入浴。その途中に裏二階から見おろすと、台所口とも思われる流れの末に長さ一間ほどの蓮根を浸してあるのが眼についた。湯は菖蒲の湯で、伝説にいう源三位頼政の室菖蒲の前は豆州長岡に生れたので、頼政滅亡の後、かれは故郷に帰って河内村の禅長寺に身をよせていた。そのあいだに折々ここへ来て入浴したので、遂にその湯もあやめの名を呼ばれる事になったのであると。もし果してそうならば、猪早太ほどにもない雑兵葉武者のわれわれ風情が、遠慮なしに頭からざぶざぶ浴びるなどは、遠つ昔の上臈の手前、いささか恐れ多き次第だとも思った。おいおいに朝湯の客が這入って来て、「好い天気になって結構です」