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かがりびのおんな

篝火の女

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《篝火の女(かがりびのおんな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,727 字 · 56 頁

青空文庫

『すると、彼に苦言を与えた東郷五郎左衛門は、熊楠にとっては、鞭撻の恩人だな』

『ところが、人間、そうとる奴はないからな』

『恨んでいるのか』

『そういう噂だ。もっとも、先もよくない。出世したら、娘をやってもよいような事を云っておきながら、五郎左衛門父娘は、その後、旅先で、今度、御当家と合戦になった上杉家の家臣と、婚約を取り交している。――相木熊楠もいい気持ちはしなかったに相違ない』

『ははあ、それですっかり読めてきた』

『わかったろう、熊楠の意中が』

『道理で、先頃から、八雲のことというと、今夜のように自分が先に立つ。――東郷家の小間使、萩乃を捕まえて拷問にかけたのも、熊楠だった』

『それも腹癒せなのだ』

『まだある。敵の安中三郎進から八雲のところへ密使をよこしたのを、逸早く知って、その乱波者を召捕らえ、八雲の邸へ奉行所の討手を向けたのも、後で聞けばみな熊楠のさしがねだという』

『恋の意趣は、古来からおそろしいものに極っている』

『まして、あの男のことだからな。八雲も、とんだ人間に想われたものだ』

『想われただけならよいがさ……。後が怖いて』

『はははは。いくら剛勇な熊楠でも、恋は戦のような腕ずくでは勝てぬからの』