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かがりびのおんな

篝火の女

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《篝火の女(かがりびのおんな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,727 字 · 56 頁

青空文庫

色が白くて、笑靨が深かった、笑うと、すこし齲の蝕っている糸切歯が唇からこぼれて見える。

『姫さま。めずらしく、外をごらん遊ばして、何がお心にとまりましたか』

『おまえには、聞えない?』

『なんですか』

『あの笛の音が――』

『飴売でございましょう』

『ちがう』

八雲は、首を振った。

萩乃は、黒い糸切歯を、ちらと笑んだ唇元から見せて、

『――では何の笛と仰っしゃいますか』

『あれを、ただの笛と聴くのは、おまえの耳がどうかしていますよ。あれは、杜鵑管です』

『えっ』

萩乃は、耳を欹てながら、

『どうして、それがお分りになりますか』

『いちどでも、自分が、この唇を歌口に当てたことのある笛の音を、何で忘れてよいものか。しかも世間に幾つとは無い名笛でもあるし……』

『そういえば、ただ子ども寄せに吹いているようでも、どこか、余韻がちがうような気もしますね』

『私の耳に、間違いはない』

自信をこめて、八雲は云った。

その杜鵑管という笛は、先おととしの事、まだ彼女の父が壮健で、近国の乱も小康を得ていた折、京都へ上洛って、清水へ詣った時に、稀一度父の手に入ったことのある品なのである。

八坂の下の古い古物屋に埃にまみれてあったのだ。