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かいだんいちやぞうし
綺堂随筆 江戸のことば
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《綺堂随筆 江戸のことば(かいだんいちやぞうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,152 字 · 27 頁
傘の上に飛びあがって、その顔を引っ掻いたのをみると、あるいは狐ではないかというのであった。
場所が重兵衛の家の前で、その怪物が狐であるとすれば、彼が狐を使うという噂もいよいよ嘘ではないらしく思われた。彼が狐を使ってひそかに魚を捕らせているところを源吉が偶然に見つけて、それを世間へ吹聴したので、その復讐のためにこんな目に逢わされたのではないかというのも、まんざら根拠のない想像説でもなかった。しかし本人の源吉が重兵衛にむかって正面から苦情を申し込むには、理由が何分にも薄弱であった。暗いなかの不意撃ちであるから、彼は勿論その正体を見とどけたわけでもなく、又その獣らしい物が重兵衛の家から出入りするところを見つけたというわけでもないのであるから、相手が知らないと言い切ればそれまでのことで、しょせんは水かけ論に終るのほかはないので、源吉も残念ながら泣き寝入りにしてしまった。他の者からは勿論なんとも言いようはなかった。
こうして、表面は無事に済んでしまったが、諸人の疑惑はいよいよ深くなった。源吉の顔の疵は癒えても、重兵衛の噂は消えなかった。しかし源吉の先例があるので、諸人はその復讐を恐れて、直接に彼に対してどういう制裁を加えることも出来なかったが、自然の結果として彼を忌み嫌うようになった。