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かいだんいちやぞうし
綺堂随筆 江戸のことば
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《綺堂随筆 江戸のことば(かいだんいちやぞうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,152 字 · 27 頁
いよいよ不思議に思って、内から火をとって出て見ましたが、やはり其処らに人の影は見えないのです。
「はて、どうしたのだろう。」
みんなも顔を見合わせました。初めに裏口から出たお角さん、次に表へ出た余一郎さん、どっちもその儘ゆくえ不明になってしまったのですから、みんなが不思議がるのも無理はありません。一体、裏と表の戸を叩いたのは誰でしょう。二人はどこへ行ったのでしょう。この場合、そんな詮議をするよりも、まずその二人のゆくえを探す方が近道ですから、五、六人の若い衆が提灯を照らして裏と表へ駈け出しました。年の若い人達ではあり、ふだんから剣術でも習おうという人達ですから、小雨の降る暗いなかを皆んな急いで出かけたのです。出ては見たが、見当が付かない。思い思いに右と左へ分かれて、的もなしに其処らを呼んで歩きました。
「お角さん……。お角さん……。」
「余一郎さん……。」
その声におどろかされて、近所の人たちも出て来ました。わたくしの店の者なども出て行って、一緒になって探し歩きましたが、二人のゆくえはどうしても判らないので、どの人もただ不思議だ不思議だと言うばかりで、なんだか夢のような、狐にでも化かされたような、訳の判らないような心持になってしまったのでございます。