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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

線上閱讀火野 葦平《花と龍(はなとりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 頁

青空文庫

「名乗れ」

桟橋の突端に退いて、そう叫んだとき、金五郎は、背中と後頭部とに、はげしく殴られたような衝撃を受けた。よろめきながら、一人の暴漢を、右腕で小脇にかかえこみ、その匕首を奪いとった。そのとき、指の怪我をした。

「角助かあ?」

「そんな者じゃねえや」

嗄れ声で、誰かが答えた。

「江崎満吉か?」

「馬鹿ぬかせ」

「友田組じゃな?」

「文句いわんと、斬られてしまえ」

身体が敏捷なのと、多少柔道の心得があるのと、持ちまえの糞度胸とで、これまでの喧嘩のときは、どうにか切り抜けて来たのだが、暗夜、足場の狭いところで、兇器を抜きつれた大勢の敵を相手にすることは、いままでのようには行かなかった。悪い条件が揃っていた。

「くたばりやがれ」

喚いて、無茶苦茶に、刀をふりまわし、突いて来る敵のために、金五郎は数ヶ所を斬られた。左の太股に、刀の切っ先を突き立てられて、桟橋の上に片膝と左手とを突いた。そのとき、前額部に、どっと、巨大な石でも落ちかかったような、するどい衝撃を感じた。自然に、頭が後へひかれると同時、顔中に、だらだらと生ぬくいものが流れ落ちた。それは眼に入り、口に入った。