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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

線上閱讀火野 葦平《花と龍(はなとりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 頁

青空文庫

おたがいに、無言で、自分だけの注意力を集中している。

雨の降る気配の鼓の音がし、三味線と唄とがはじまった。花道にすぼめられた一本の蛇の目傘があらわれた。踊り手二人の上半身が、その中につつまれている。顔は見えない。そのままの恰好で、花道から、舞台の中央に出た。屋形舟の前に来て、傘をひらいた。

文金高島田のうえに手拭をかぶり、五位鷺の裾模様のある振袖をひるがえしているのは、御殿女中に扮している光丸。

男役になっている女は、頭を鬘下にし、荒い縞模様の着物を着ている。二人は相合傘の中で、形をきめると、男役の方が、正面を向いた。

金五郎は、びっくりした。眼を、皿にした。

(お京、……?)

二十歳を

越せど、

色恋は……

唄と三味とに乗って、二人は、柔軟に、舞台一杯を動き、踊る。優婉で、美しい。「掟きびしき白玉の、露にも濡れしことはなく」――色恋を法度として遮断されていた初心な御殿女中が、はじめて知った男への恋慕のきびしさに、とりのぼせる所作事らしい。

不粋な金五郎には、それくらいの意味しかわからないが、そんなことよりも、男役になっている女の顔に、瞬き一つせず、彼の眼は釘づけされていた。