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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

線上閱讀火野 葦平《花と龍(はなとりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 頁

青空文庫

その下に、朱塗りの袋戸棚がある。そこを開いた金五郎は、中から錦の袱紗につつんだ一本の刀を取りだした。紐をとくと、すらりと、引き抜いた。若いころ、道後の町で手に入れてから、ずっと大切にしている助広である。手入れがよいので、水がしたたり落ちるかと思われるほど、刀身が青く澄んで、光っている。

金五郎は、浴衣の諸肌をぬいだ。青々とした龍の彫青が、白い左腕に浮きあがった。息子の前に立ちはだかった。

「勝則」

と、怒りの眼をぎょろつかせて、息子を睨んだ。

「はい」

「おれは腸が煮えくりかえるごとあるぞ。あれだけいうといたのに、お前がこげなことしでかして、なんもかんも、わやじゃ。大庭の親方の顔も、藤本さんの顔も、おれの顔も、丸つぶれになってしもうた。おまけに、友田喜造の顔にまで、泥を塗った。みんな、お前のためじゃ。打ち斬ってくれたい」

「すみません」

勝則は、深く、首をたれた。

かたわらにいるマンは、おかしなことに、はるか遠い日の思い出の中に、引きもどされて、ぽかんとなっていた。或る一つの光景が、あざやかに、眼に浮かんで来て、奇妙な錯覚に、戸まどっていた。

(今と同じようなことが、昔、あったわ)