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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

線上閱讀火野 葦平《花と龍(はなとりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 頁

青空文庫

金五郎は、プッ、プッ、と、両手のたなごころに、唾をはきこんだ。それから、親指を中に包んで、拳をにぎりしめ、猛然と、修羅場の中心に、おどりこんだ。

インド丸の船長をはじめ、船員たちが、出て来た。

「静まれ、静まれ」

必死に喚いたり、止めに入ったりしてみたが、効目はなかった。

金五郎は、あばれた。持って生まれた馬鹿力と、糞度胸と、小さいときから、ターザンのように、山から山、木から木を飛びまわった敏捷さと、いくらか囓った柔道と、草角力の大関までのぼったことのある、四十八手の裏表と――悲しみに似た、いいようもない憤りに駆りたてられて、金五郎は、ぶっつかる敵を、片はしから、甲板に転がした。何人かを、高い舷から、海に投げこんだ。

大男の助役が、大村組の、これも劣らぬ巨大漢に組みしかれて、咽喉をしめつけられている。三角眼を白黒させ、今にも、息が切れそうな、不景気な声を出している。

金五郎は、それを見たが、助ける気持は起らなかった。煙突にもたれ、唇を噛み、汗をふいた。

一人の敵が、そっと、金五郎に忍びよった。雁爪をふるって、襲いかかった。金五郎は、気づかなかった。