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わかとのじょなんき
若殿女難記
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《若殿女難記(わかとのじょなんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 頁
そして密会は終った。
明くる朝早く、大助さまの行列は大井川を渡って東へ向った。途中なんのお話もなく、いや、お話というではないがちょいとした事があった。それは三島の駅で泊ったとき、若殿が宿の寝所の窓から結び文を投げたことだ、外は如法闇夜であったが、家の蔭からつと一人の小者が現われてそれを拾い、東の方へ鼬のように走り去った。それからさらに藤沢の駅と神奈川とで同じようなことがあった、いかにして外部とそんな連絡があるか、なにごとを誰と牒し合せているのかわからないが、この事実は諸君の記憶に留めて置いて頂きたいのである。――さて行列は芝愛宕下にある森家の中屋敷に着いた。ここでひとおちつきして、それから伯耆守長武と父子対面をするわけである。大助さまが到着した夜、中屋敷ではまた奸臣共の密会があった、側用人松田久弥、勘定奉行灰山主税、筆頭年寄増井琴太夫、中老角田精一郎、同じく瀬沼六郎兵衛、大目付小林三之丞、これらに五十塚、額田、原野などを加えた十八名、森家重臣のうちでも名だたる連中が揃っていた。――一言にして申せば、彼等は十八万六千石の政治をおのれ等の手に掌握しようとしているのである。