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わかとのじょなんき
若殿女難記
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《若殿女難記(わかとのじょなんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 頁
騒ぐことは一人前だが酒はあまり強くないとみえる。それとも待望の淑女たちに取巻かれて、彼女たちの発する温柔媚の姿態と芬薫たる香気に悩殺されたのかも知れない。三人の侍臣に担がれて寝所へ運ばれる、木偶のように着替えをされて夜具の中に横たわった。
「おう紋太夫を呼んで来い」夜具の中でこんなことを喚く。「あいつはふてえ野郎だ、縛り首にしてくれるからしょっぴいて来い、ついでに酔いざめの水を頼むぜ、姐さん、こう見えても十万、じゃあねえ十二万、でもねえ十八万六千石のばか殿だ、いいかばか者ッとくらあ、おう誰かいるか、――誰かいたら茶漬でもぶっかけ飯でも持って来い、ばか殿をばかにすると承知しねえぞ」
えへん、という咳払いが宿直から聞えた。そして宙野儀兵衛の声で、「窓井は退りました。おやすみ遊ばせ」と囁やいた。なにごとであろう、それを聞いたとたん若殿は喚きやめて寝返りをうった。それから、「寝るぞ」と云うと、やがて静かな寝息をたてて眠りだされた。緞帳芝居の幕は下り、劣等至極なばか騒ぎは終り申した。――奥庭をまわる柝の音、御殿の廂をかすめる夜風の囁やき、なにもかも静寂安穏な眠りにおちつきめされた。