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わかとのじょなんき

若殿女難記

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《若殿女難記(わかとのじょなんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 頁

青空文庫

彼女は恍惚と若さまの顔を見ていた。それからやおら体ぜんたいに曲線の波をうたせながら、熱い太息といっしょにもうひと膝すり寄せて、清純無邪気にこう囁やいた。

「ねえ若さま、おはなしは後に致しましょう」

ニイチェなる破戒僧の箱書に依れば、男は先ず思案してから失敗を犯し、女は失敗してから思案するという。若さまはこの箱書を御存じないとみえ、狼狽して立上ると、「要するに貴女は花の如く清浄な――」などと云いながら帳を排してどこかへいってしまった。双葉は若さまの夜具へつっ伏して泣き沈んでいるところを、老女に援けられて局へ帰ったが、待兼ねていた腰元たちの羨望好奇に満ちた質問をあびると、

「若さまはお可哀そうよ」と云って噎びあげた。

「言葉では云いきれないほどわたくしを愛しておいでなのですって、男女七歳のときからおまえを想っていたって仰しゃいますの、わたくしのことを厳そかで尊い女性だとも仰しゃいましたわ、ああ広いこの世に、こんなに、こんなに烈しく深く愛された者が二人とあるでしょうか」そして彼女は泣き沈んだ。「本当に、二人とあるでしょうか、わたしの他に一人でもあるでしょうか」