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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《落ち梅記(おちばいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 頁
「本当にそうお思いなさいますの」
「いちど公郷に会いたいと思うのですが」と、彼は由利江の反問には答えずにきいた、「――いつ頃いったら彼は家にいますか」
「そのときによりますけれど、午まえでしたらたぶん――でも、定ってとは申上げられませんわ」
由利江は恥ずかしそうに俯向いた。やっぱり家を外にして、幾日も帰らないようなこともあるのだろう、彼は由利江の顔が見られない感じで、「では明後日ゆくから家にいるように伝えて貰いたい」と頼んだ。
二人はふと沈黙した。それまでの話とは別に、もっとうちとけて語りたいことがある、お互いにとってもっとじかな、もっと親しく感情で触れあう話が、……由利江はわずかに窓の外へ眼をやった。金之助もそちらへ振向いた。雨にけぶる樹々の若葉からは緑の霧が立つように思える。すでに花期の過ぎた牡丹畑、――しとどに濡れたその葉ばかりの牡丹を、由利江はじっと思い深げに見まもっていた。
――母親に亡くなられたあと、由利江がこの家へ預けられたときから、もうこんなにも長く時が経ってしまった。
金之助はこう胸の中で呟いた。すべてはながれ去ったのである。どんな方法を以てしても、もはやあの頃のお互いをとりかえすすべはない。