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おちぼひろい

落穂拾い・犬の生活

小山 清

線上閱讀小山 清《落穂拾い・犬の生活(おちぼひろい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 頁

青空文庫

私は御飯を御馳走になり、また、すすめられて湯にも入った。私が湯をつかっていると、焚口の処から息子さんが湯加減を訊いた。主人の猟の連れは日本人で、この家の出入りの職人かなにからしく、主人に対して下手な口をきいていた。

あくる日の昼頃、玄関わきの部屋で私が携帯した鞄の中から聖書を出して読んでいると、戸外で女の声が「ごめん下さい。卵を分けて下さいませんか。」と云っているのが聞えた。なんだか母の声に似ているなと私が思っていると、しばらくしてこの家の玄関の戸があいて、「ごめん下さい。」とこんどはもう紛れもなく母のおとなう声がした。昨夜、この家の人が私のことを藤沢の警察署に届け、警察から私の家に連絡があって、それで母が迎えに来たのである。私はこの家の人から私の家の住所を訊かれたときに、べつに躊躇はしなかった。このまま放浪をつづけて行く気など、私にありはしなかったのだから。母と一緒にこの家を辞して帰るとき見たら、隣りの家の門口に「生みたて卵あります。」と書いた紙が貼ってあった。その後私はふと、「卵を分けて下さいませんか。」と云った母の声音を思い浮べることがあったが、そのたびに私はなんとつかず可笑しくもなったものだ。