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おちぼひろい

落穂拾い・犬の生活

小山 清

線上閱讀小山 清《落穂拾い・犬の生活(おちぼひろい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 頁

青空文庫

あれはいいね。君だって覚えがありやしないかな。君の少女時代に近所にそんな子が一人位いたろう。そして君はその子のことをこっそり心の中で思ったりしたのだろう。」

私はただもう口から出まかせに喋った。私はいま軽くうっちゃりを喫して、危くべそをかくところだったのだが、そんな出鱈目を喋っている中に、どうやら表情の緊張だけは揉みほごすことが出来た。彼女は私が莫迦なことを云うのを、ただ黙って笑っている。私はなお座にいたたまらない気がして、ふいと起って台所へゆき御飯蒸の蓋を取り、芋に箸を突きさしてみたが、まだ固い。バケツの水を柄杓で一口呑み、手拭で顔を一拭きして座敷へ戻ると、卓上に意匠、色彩、眼に鮮やかな外国製のシガレットが載せてある。これを呉れるつもりなのだろうか。お灸を据えられた後で、お菓子を貰らうようなものだ。餓鬼じゃあるまいし。しかし、ともかく私は気分を一転しまたも彼女と対座したのだが、はしなくもかく主顔をして客を迎えては、自身初めて太宰さんを訪問した日のことを思わずにいられなかった。いま眼前に見る女客の落着き澄ましているのに引替えて、その時の私はと云えば、実に異様に緊張していたのである。