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とうじゅうろうのこい
藤十郎の恋・恩讐の彼方に
菊池 寛
線上閱讀菊池 寛《藤十郎の恋・恩讐の彼方に(とうじゅうろうのこい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 37,146 字 · 74 頁
その時、祖母は私の妻の母を懐胎していたのです。何しろ、先妻の子は四人――然もその長男は二十五にもなっていたそうです――もある所に、宗兵衛の死後、祖母が止まっていると云うことは、まだ年の若い祖母の為にも、先方の為にも思わしくないと云うので、祖母が身が二つになると同時に、生れた子供を連れて離縁になることになりました。宗兵衛の後嗣と云うのが、非常に物の判った人と見え、子供の養育料として一万両と云う可なりな金額を頒けてくれたそうです。祖母は、その金を貰って子供を連れて、一旦里に帰って来ましたが、子供を預けて再縁をせよと云う親の勧めや又外から降るように来る縁談を斥けて、娘を連れたまま、向島へ別居することになりました。そして、心置きのない夫婦者の召使いを相手にして、それ以来、ズーッと独身で暮して来ました。恐らく最初の結婚で、男と云うものの醜くさを散々味わされた為、それが又純真な傷き易い娘時代で一段と堪えたと見え、癒しがたい男嫌いになってしまったのでしょう。祖母は向島の小さい穏かな住居で、維新の革命も彰義隊の戦争も、凡て対岸の火事として安穏に過して来ました。