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とうじゅうろうのこい

藤十郎の恋・恩讐の彼方に

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《藤十郎の恋・恩讐の彼方に(とうじゅうろうのこい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 37,146 字 · 74 頁

青空文庫

国越をしようとする忠次の心には、さすがに淡い哀愁が、感ぜられていた。が、それよりも、現在一番彼の心を苦しめていることは、乾児の始末だった。赤城へ籠った当座は、五十人に近かった乾児が、日数が経つに連れ、二人三人潜かに、山を降って逃げた。捕方の総攻めを喰ったときは、二十七人しか残っていなかった。それが、五六人は召捕られ、七八人は何処ともなく落ち延びて、今残っている十一人は、忠次のためには、水火をも辞さない金鉄の人々だった。国を売って、知らぬ他国へ走る以上、この先、あまりいい芽も出そうでない忠次のために、一緒に関所を破って、命を投げ出してくれた人々だった。が、代官を斬った上に、関所を破った忠次として、十人余の乾児を連れて、他国を横行することは出来なかった。人目に触れない裡に、乾児の始末を付けてしまいたかった。が、みんなと別れて、一人ぎりになってしまうことも、いろいろな点で不便だった。自分の目算通に、信州追分の今井小藤太の家に、ころがり込むにしたところが、国定村の忠次とも云われた貸元が、乾児の一人も連れずに、顔を出すことは、沽券にかかわることだった。手頃の乾児を二三人連れて行くとしたら、一体誰を連れて行こう。