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らん
蘭
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《蘭(らん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,247 字 · 21 頁
かこってあるわらの中は、高雅な香りに満ちていた。――きょうという日に咲いた。目に見えぬえにしの糸でもつながれてあるような、かなしい愛着の情にそそられながら、いつまでも、かれはその花をながめつづけた。
その翌朝まだ暗いうちに、生之助は家をぬけだして長山の丘へ向かった。家々の屋根も、道の上も、雪のように白い霜でおおわれ、足にしたがってさくさくと砕ける音が聞えた。長山は城下を東へ出はずれた丘陵で、マツ、スギ、ナラなどの深い林に包まれているが、うしろに講武台のできた背のところには、平らな草地がある。生之助はそこを目あてにして登っていった。……乳白の朝もやが薄くはいたように、枯草のしがみついた地表に垂れ、条をなしてたなびいていた。腰から下を、その朝もやに消されて、草地の一隅に脇屋藤六の姿が見えた。かれにつき添って三人の若侍がいる。生之助はそのようすをながめながら、しずかな足どりで近づいていった。
「よう、来たな」藤六が、しゃがれた声でそういった。「……黒沢はいっしょか」
「おれひとりだ。黒沢は江戸へ立った」
「逃げたか」藤六はひきゆがんだあざけりの笑いをうかべ、ずかずかとこっちへ踏みよって来た。