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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《蜘蛛の夢(くものゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 頁

青空文庫

それがこの七、八月ごろからだんだん工面が好くなったらしく、母も娘も秋から冬にかけて、新しい袷や綿入れをこしらえたのを、眼のはやい者がたちまち見つけ出して、それからそれへと吹聴した。それだけでも井戸端のうわさを作るには十分の材料であるのに、その親子がさらに表通りへ乗出して、たとい小さい店ながら、荒物屋の商売をはじめるというのであるから、問題がいよいよ大きくなったのも無理はなかった。

しかし一方からいえば、それはさのみ不思議なことでもないのであった。この七、八月ごろから二十五、六の若い男が時どきたずねて来て、なにかの世話をしているらしい。男の身許は判らないが、ともかくも小綺麗な服装をしていて、月に二、三度は欠かさずにこの路地の奥に姿をみせている。そうして、おすま親子に対する彼の態度から推察すると、どうも昔の主従関係であるらしい。おそらく昔の家来すじの者が旧主人のかくれ家をさがし当てて、奇特にもその世話をしているのであろう。親子が今度新しい商売を始めるというのも、この男の助力に因ること勿論である。

こう考えてみれば、別に不思議がるにも及ばないのであるが、好奇心に富んでいるこの長屋の人たちは、不思議でもないようなこの出来事を無理に不思議な事として、更にいろいろのうわさを立てた。