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おつきさまのうた

豊島与志雄童話集

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《豊島与志雄童話集(おつきさまのうた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,569 字 · 336 頁

青空文庫

山の別荘の少年

私は一年間、ある山奥の別荘でくらしたことがあります。なかば洋館づくりの立派な別荘でした。番人をしている五十歳ばかりの夫婦者と、その甥にあたる正夫という少年がいるきりでした。私は正夫とすぐに親しくなって、いろいろなことを語りあい、いろいろなことをして遊びました。たくさん思い出があります。そのいくつかをお話しましょう。

一 さくら

別荘の裏手の山つづきのところに、たくさんの桜の木がありました。春になるといっぱい花がさいて、家ぜんたいが、花にだかれたようになりました。

山奥の桜の花は、じつにきれいで、都会の公園の花のように埃をかぶっていませんし、平野の花のように色あせていません。花びらがみずみずしくてくっきりと白く、ほんのりと赤みがういて見えます。それが無数にさきみだれて、その間から、かわいい小さな葉が、緑色に笑いだしています。

朝日がさすと、白い綿のようですし、夕日がさすと、うす赤い綿のようです。月の光がさすと、夢のなかの雲のように見えます。

ある晩、私は窓をあけて、月の光がいっぱいさしてるなかで、桜の花をながめました。それから外に出ていって、花の下を歩きました。