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きんせいかいじんでん

近世快人伝

夢野 久作

線上閱讀夢野 久作《近世快人伝(きんせいかいじんでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 頁

青空文庫

向うの暗い棚の上には、章魚の丸煮や、蒲鉾の皿が行列している。鼻の先の天井裏からは荒縄で縛った生鰤の半身が、森閑とブラ下っているが、無い袖は振られぬ理窟で、五合桝を中に置いて涙ぐましく顔を見交しているところへ天なる哉、小雨の降る居酒屋の表口に合羽包みの荷を卸した一人の棕梠箒売が在る。

元来この棕梠箒売という人種は、日本中、どこへ行っても他国の者が多い。従ってどことなく言葉癖が違っている上に、根性のヒネクレた人間が珍らしくない。仁輪加なんか無論わかりそうにないノッソリした奴が多いのであるが、その中でも代表的と見える色の黒い、逞ましそうな奴が、骰子の目に切った生鰤の脂肉の生姜醤油に漬けた奴を、山盛にした小丼を大切そうに片手に持って、

「ええ。御免なはれ」

と這入って来た。唖然として見惚れている仁三郎とその相棒を尻目にかけ、件の小丼を仁三郎の背後のバンコに置き、颯爽として奥へ這入り、店の親爺を捉まえて商売物の棕梠箒で棕梠ハタキを押付けて酒代にすべく談判を始めた。ところがその居酒屋の親爺なる人物が又、人気の荒い大浜界隈でも名打ての因業おやじでナカナカそんな甘手の元手喰式慣用手段に乗るおやじでない。