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しぜんかいのきょぎ
進化と人生(下)
丘 浅次郎
線上閱讀丘 浅次郎《進化と人生(下)(しぜんかいのきょぎ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 55,568 字 · 109 頁
いかにていねいに探して見ても、上腹区と中腹区との間にも中腹区と下腹区との間にも、判然たる境界線は決して見いだされぬ。そのありさまはいかに地面を探しても下谷区と浅草区との境界線がなく、いかに隅田川の底を調べても日本橋区と本所区との境界線が見当たらぬのにひとしい。されば頸とはどこからどこまでを言うか、腕とはどこからどこまでを言うかと尋ねられると、解剖書の図版の上では答えられても、実物を突きつけられてはたちまち閉口する。かような次第で、およそ物の名前の定義は、みな、人間が自身の都合で勝手に境界を定めたものに過ぎぬが、実物のある場合には、このことはただちに知れる。これに反して実物について検査してみる便宜のない抽象的の言葉であると、自分で造った境界線が真にそこにあるごとくに考えるくせがついて容易なことではこれが抜けぬが、これはすでに言葉に捕えられている徴候である。自分の地面と隣の地面との間には明らかな境界線を定めておかねば気がすまず、わが国と隣の国との間には溝を掘って境をあきらかにしておかぬと安心ができぬが、この心持ちが、言葉の方面にも働いて一つ一つの言葉の間に繩張りをしておかぬと、観念の整理ができぬごとくに感じ、なにはさておいても言葉の定義を造ることに骨を折るのであろう。