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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《醜聞(しゅうぶん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 頁

青空文庫

「知らないな」帰り支度をしながら功兵衛は答えた、「吟味役が代ったのか」

「御存じなかったのですか、苅田さんが改易になったのも」

「知らなかったな」功兵衛は立ちあがってたしなめるように云った、「噂は聞き止めにするほうがいい、口から口へ伝わると尾鰭が付くからな」

寺田は気まずそうに眼を伏せた。それを見て功兵衛は衝動的な怒りにおそわれた、なんのために怒ったのか自分にもわからなかったが、彼は寺田のほうへ一歩近よった。

「世評とはおよそ無責任なものだ」と功兵衛は怒りを抑えながら云った、「どんなに話を面白く誇張しても、噂をする者は少しも傷つかない、だが噂をされる本人はそのたびに傷つき、不当に汚名をきることになる」彼はそこまで云って、わかりきったことにいきまいている自分が急に恥ずかしくなった、「とにかく」と功兵衛は声をやわらげて云った、「――改易などということをむやみに云わないほうがいいな」

寺田庄司は黙って低頭した。

下城した功兵衛は、帰宅するとすぐ常着に替え、着ながしのまま家を出た。夕食は済ませて来ると云い、ゆき先は告げなかった。柳町は丙午の火事に焼けなかった一画から、さらに二町ほどはなれたところにあり、うしろの林は稲荷山まで続いていて、狐のなき声がしばしば聞えるという。