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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,251 字 · 39 頁

青空文庫

」と、振り向いた藤吉は、もう笑ってはいなかった。「おらあ十手渡世が嫌になった――。」

また始まった! こう親分が、悲観的な口調を洩らすところをみると、さては謎が解けた、と思って、彦兵衛が微笑を噛み殺していると、藤吉は続けて、

「おいらは、あたまがどうかしてらあ。今のいままで、こんなことに気がつかねえたあ、われながら、情なくて、あいそが尽きるじゃあねえか。」

拍手の音が聞こえて、浮世節が終ったらしく、花坊主が降りて来そうな気はいだった。つぎは、呼びものの一つの紋之助の人形である。すると、眼が覚めたように活気づいた釘抜藤吉だった。

いきなり、その、出の時が迫って来たので、高座のほうへ廊下を進もうとする紋之助老人の前に、立ち塞がった。

幸七、出方の藤吉、円枝、梅の家連の女たち、楽屋番の銀兵衛ほかの芸人などが、愕いた顔を、そのまわりに持って来る。

人々に囲まれて、おこよは、紋之助を庇おうとするように、前へ出た。

しずかに、藤吉が、言っていた。

「師匠。」

静かに、紋之助が、答えた。

「何でございます。」

「やったね、師匠。」

「ほほう、何のことで――。」

ちょっと、間があった。