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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,760 字 · 24 頁

青空文庫

だが、これだけの理由で、このごろは内輪が苦しいとはいうものの、この大店の主人が、書遺き一つ残さずに首を縊ろうとはどうしても思えなかった。

「それで、その、なんですかい。」と藤吉は常吉の話のすむのを待って口を入れた。

「その徳松さんとかってえ子供衆は、今だに行方知れずなんですかい。」

「子供と言ったところで、いまごろはあの荷方の仙太郎さんくらいに――。」

と答えようとする常吉を無視して、ちょうどそこへ水を汲みに来た女中の傍へ、藤吉は足早に進み寄って何ごとか訊ねていたが小声で彦兵衛を呼んでその耳へ吹き込んだ。

「おい、一っ走り馬喰町の吉野屋まで行って、清二郎という越後の上布屋を突き留めて来てくれ。」

頷首いた彦兵衛の姿が、台所の薄暗がりを通して戸外の方へ消えてしまうと、置場へ引っ返して来た藤吉は、検視の役人へ声を掛けた。

「旦那、こりゃあどうも質のよくねえ狂言ですぜ。とにかくこの自滅にゃあ不審がありやすから、すこし詮議をさせていただきやしょう。」

「そうか、おれもなんだか怪しいと思っていたところだ。」

と鬚のあとの青々とした若い組下の同心が、負けない気らしく少し反り返って答えた。