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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 139,230 字 · 280 頁
いずれも咽喉を突いたものですが、血潮の凄まじさは、大動脈を切ったのが致命傷になったためでしょう。
年の頃は五十四五、先代の主人総兵衛の義弟で、長いあいだ放浪生活をしたとは聴いておりましたが、恰幅も見事、人相も福々として、大家の主人として恥かしくはありません。
「刃物は?」
「これでございます」
血の付いた脇差が、抜身のまま、死骸の後ろの箪笥の上に載せてあります。
「少し変だな、――その箪笥の間へ入っていたのかい」
「ヘエ――、今朝見たときは何にもなかったように思いましたが、あとで幸吉どんが、箪笥と壁の間から見付けました。――自害した主人が、刃物をあんなところへ抛り込めるでしょうか」
文六の疑いは、また平次の疑いでもあったのです。自分の咽喉の大動脈を切った人が、俯向きに倒れながら、刃を後ろの方一間半も離れている、箪笥と壁の間へ抛り込めるはずはありません。
「八、箪笥の裏と壁とに血が付いていないか見てくれ」
「ヘエー」
平次はその間に部屋の様子を丁寧に見ました。隣は娘の幾代の部屋で、壁一重を隔ててはおりますが、断末魔のうめきくらいは聴えそうです。それに、夜中この部屋に忍び込む者があったとすれば、幾代が気の付かないはずもなく、これがもし殺しだとすると、一番先に義理の娘の幾代に疑いがかからずにはいません。