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ゆきたたき

雪たたき

幸田 露伴

線上閱讀幸田 露伴《雪たたき(ゆきたたき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 28,132 字 · 56 頁

青空文庫

然し先方は何のこだわりも無く、身を此方へ近づけると同時に、何の言葉も無く手をさしのべて、男の手を探り取ってやさしく握って中へ引入れんとした。触った其手は暖かであった、なよやかであった。其力はやわらかであった、たしかに鄙しく無い女の手であった。これには男は又ギョッとした。が、しかし逃げもしなかった、口もきかなかった。

「何んな運にでもぶつかって呉りょう、運というものの面が見たい。」

というような料簡が日頃定まって居るので無ければ斯様は出来ぬところだが、男は引かるるままに中へ入った。

女は手ばしこく門を鎖した。佳い締り金物と見えて音も少く、しかもぴったりと厳重に鎖されたようだった。雲の余りの雪は又ちらちらと降って来た。女は門の内側に置いてあった恐ろしい大きな竹の笠、――茶の湯者の露次に使う者を片手で男の上へかざして雪を避けながら、片手は男の手を取って謹まやかに導く。庭というでは無い小広い坪の中を一ト筋敷詰めてある石道伝いに進むと、前に当って雪に真黒く大きな建物が見えた。左右は張り出たように、真中は引入れてあるように見えたが、そこは深廂になっていて、其突当りは中ノ口とも云うべきところか。