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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《顎十郎捕物帳(あごじゅうろうとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,028 字 · 30 頁

青空文庫

すさきの浜

「お、どうして、それを!」

すさきの浜

顎十郎は、エヘラエヘラ笑って、

「どうしてとは、水くさい。それに、しょうしょう往生ぎわが悪いですな。ここまできわめをつけられると、たいていの人間なら兜をぬぐにきまっているんだが、どうでもシラを切ろうというところには感服いたしました」

長い顎をツン出して、冷かすように相手の顔を見る。とぼけた面相のせいか、どことなくおかし味があって、こんな毒のあることを言っても、いっこう憎体にならないのが不思議。うつむいて、石仏のように黙念としているのを、しり目にかけながら、

「キザなことを言うようですが、このへんはまだほんの前芸。どうしてもシラを切られるなら、いよいよ本芸にとりかかる。……あなたが屋敷を出られて、ここへ来られるまで、いったい、どんなことをなさったか、いわゆる、掌をさすように解きあかしてお目にかけましょう」

オホンと乙な咳ばらいをして、

「あなたが芝田村町の上屋敷を出られたのが、けさの五つ半。屋敷の乗物には乗らず、すぐ二丁目の辻にあんぽつの辻駕籠があるのにそれもさけ、わざわざ流しの汚ない四つ手が通るのを待って、それに乗っていったん日本橋まで行き、本石町の土佐屋で鰹節の切手を買い、それからこの本郷真砂町までやって来た。