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いずこへ

風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇(いずこへ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 頁

青空文庫

つまり、矢田津世子に就てであった。

私は果して、それが書きうるかどうか、その時から少からず疑っていた。ただ、私は、矢田津世子に就て書くことによって、何物かが書かれ、何物かが明らかにされる。私はそれを信じることができたから、私はいつか、書きうるようにならなければいけないのだと考えていたのであった。

始めからハッキリ言ってしまうと、私たちは最後まで肉体の交渉はなかった。然し、メチルドを思うスタンダールのような純一な思いは私にはない。私はただ、どうしても、肉体にふれる勇気がなかった。接吻したことすら、恋し合うようになって、五年目の三十一の冬の夜にただ一度。彼女の顔は死のように蒼ざめており、私たちの間には、冬よりも冷めたいものが立ちはだかっているようで、私はただ苦しみの外なにもなかった。たかが肉体ではないか、私は思ったが、又、肉体はどこにでもあるのだから、この肉体だけは別にして、という心の叫びをどうすることもできなかった。

そして、その接吻の夜、私は別れると、夜ふけの私の部屋で、矢田津世子へ絶交の手紙を書いたのだ。もう会いたくない、私はあなたの肉体が怖ろしくなったから、そして、私自身の肉体が厭になったから、と。