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こうげんのたいよう
高原の太陽
岡本 かの子
線上閱讀岡本 かの子《高原の太陽(こうげんのたいよう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,558 字 · 17 頁
「素焼の壺と素焼の壺とただ並んでるようなあっさりして嫌味のない男女の交際というものはないでしょうか」と青年は云った。
本郷帝国大学の裏門を出て根津権現の境内まで、いくつも曲りながら傾斜になって降りる邸町の段階の途中にある或る邸宅の離れ屋である。障子を開けひろげた座敷から木の茂みや花の梢を越して、町の灯あかりが薄い生臙脂いろに晩春の闇の空をほのかに染め上げ、その紗のような灯あかりに透けて、上野の丘の影が眠る鯨のように横わる。鯨の頭のところに精養軒の食堂が舞台のように高く灯の雫を滴らしている。座敷のすぐ軒先の闇を何の花か糠のように塊り、折々散るときだけ粉雪のように微に光って落ちる。
かの女は小さく繃帯をしている片方の眼を庇って、部屋の瓦斯の灯にも青年の方にも、斜に俯向き加減に首を傾げたが、開いた方の眼では悪びれず、まともに青年の方を瞠めた。
「それではなにも、男女でなくてもいいのじゃございません? 友人なり師弟なり、感情の素朴な性質の者同志なら」こうは答えたもののかの女は、青年の持ち出したこの問題にこの上深く会話を進み入らせる興味はなかった。ただこんなことを云っているうちに、この青年の性格なり気持ちがだんだん判明して来るだろうことに望をかけていた。