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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

「弦之丞とお綱を片づけるその刷毛ついででけっこうです。どうれ、おれも掃除の刷毛ついでに……」

と、二、三本徳利の目量を計ってみて、残っている燗ざましを、鼻の先へ捧げてくる。

「あるな。もったいない」

ごくり、ごくり、と酒の入ってゆく宅助の喉が、百足虫の腹のように太った。

「おい宅べエ、うまくやってるな」

後ろで声がしたので、酒の雫を拭きながらふりかえってみると、さっき賭将棋をやっていた相手の門番、伊平という老爺である。

「どうだ、おめえも」

「燗ざましじゃ、承知ができない」

「冗談いうねい、あの将棋はこわしじゃねえか」

「それじゃないよ。オイ宅さん、お前もなかなか隅へおけないね」

「な、なぜよ」

「ちょっとおいで、いいものを握らせるから」

「いやだぜ、小気味が悪い」

「これでもかい」

と門番の伊平、今、使屋が届けてきた女文字の手紙を、宅助の鼻の先へ見せた。

「おや」

見ればお米の手筆である。

封へにじんだ口紅も憎らしいが、あの女が、宅助さまへ――とはどういう風の吹き廻しだろう。

お米から、あのお米から手紙とは、ちょっと思いがけなかった。

宅助はなんだか、寝返りを打った自分の情婦から来た文でも見るような気がして、封を切った。