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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

こう観じてくると、紐たるや、紐の役目も、仇やおろかな苦労ではなかろう。忍苦忍従の大事業にも等しい。されば、常に蚤糞を肌着につけて、寝酒一升の恩賞にあずかるため、時には命も軽しとする仲間部屋の中からでもなければ、よくこの任にたえる異才は現われまい。

なにしろ、お米にとっては、苦手であり、手強い懸引相手である。

しかしこの場合、非常手段を用いても、宅助をまいてしまわないうちは、決して、自由は解かれていない。藪で捕われた鶯が、籠のまま藪へ帰されても、それが放たれた意味にはならないのと同じに。

「――だからね、宅助や、私はこう思案しているのだけれど、どうだろう?」

下手に出ると、宅助は、その泣き落しに誘われないで、

「たいそう尋常なお話で。嫌いぬいたわっしに、今度はご相談といらっしゃいましたか」

「茶化さないで聞いておくれよ」

乗人が迷っている様子なので、櫓を取っている船頭は、ゆるゆると阿波座堀を漕いで、今、太郎助橋の橋杭を交わしかけていた。

「決して、茶化してなんぞいるものですか。これが宅助の大まじめなところで」

「なにしろ、いくらあつかましくっても、このまま、ハイ只今と、家へいきなり帰るわけには行かないから、当座の間、どこかへ二、三日落ちついて、大津の叔父さんに来て貰おうと思うのさ」